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わが忘れなば

備忘録の意味で。タイトルは小沢信男の小説から。

ひよどり祥子『死人の声を聞くがよい』

ホラー漫画の熱心な読者とはとても名乗れない。好きなマンガ家の中にホラーマンガ家に分類される人たちが何人かいるという程度が正確な表現だと思う。

楳図かずお古賀新一藤子不二雄Ⓐ、日野日出志伊藤潤二丸尾末広御茶漬海苔といったマンガ家たちの描く恐怖マンガが好きで、それぞれ時期やきっかけ、のめりこみ具合は違うけれども愛読していた。けれども、自覚的なホラーファンではなかったのでホラーマンガ誌を購読したり、ホラーマンガというジャンルから積極的に面白そうな作家を探したりはしていなかった。例外は、もう休刊になった「ホラーM」(ぶんか社)という雑誌で、これだけはぼくの好みに合うマンガがあまりにも多いので時々買ったり、連載をチェックしたりしていた。

記憶で書いているので不正確かもしれないが、ぼくがよく読んでいた休刊直前の時期の「ホラーM」では、三家本礼の『サタニスター』、押切蓮介の『ミスミソウ』や『ツバキ』、明智抄の『少女忍法帳』、西岡兄妹の『神の子供』などが連載されていて、御茶漬海苔が読み切り短編を載せていたりした。どのマンガも素晴らしく面白く、美しいものから残酷なもの・ハチャメチャなものまで幅広く、ホラーというくくりで自由な場所を実現した雑誌だという印象だった。休刊は本当に残念だ。

最近新刊を読んだうぐいす祥子(この作品だけひよどり祥子)もホラーMで「闇夜に遊ぶな子供たち」という作品を連載していた。霊能力を持つ幼い兄妹が心霊現象に遭遇するという話で、王道なストーリー、美麗でグロテスクな絵、巧みな演出が特徴でとても面白かった。

ぼくが、つい先日読んだ新刊は、秋田書店から出た『死人の声をきくがよい』だ。

死人の声をきくがよい (チャンピオンREDコミックス)

死人の声をきくがよい (チャンピオンREDコミックス)

死霊たちの姿が見え、かれらとコミュニケーションできるという sixth sense な能力をもつ少年岸田は、最近何者かにに殺された幼馴染の少女早川(表紙の女の子)の霊に憑かれている。この作品は、岸田がさまざまなホラー現象に遭遇しながらも、早川の導きによって救われるという連作だ。

巻末の推薦文で伊藤潤二が「ホラー湿度 94% 」と書いているが、確かにこのマンガの絵を見ているとジメジメした雰囲気が漂ってくる。とにかく画面が暗い! コマの四方はほとんど常に何かの影や霧のようなもやもやに覆われて昼でも屋外でも晴れわたることはほとんどない。また、キャラクターの顔や目のアップも多く圧迫感と近接感がある。まだ何が起きているわけでもない時点で、何が出てきてもおかしくない事態がはっきりできている。そんな状態で出てくるのが、蟻の群がる切り落とされた人間の耳やコガニに食い荒らされた水死体のアップだ。これらが出てくるとストーリーは一気に異常者や邪教、超自然的な存在の登場を迎える。

ストーリは王道的で、展開もテンポがよいので一気に読ませる。また演出も、耳や水死体が出てくる場面も大ゴマや集中線が多用されることがなく上品で静かな印象なので飽きずに何度も読み返せる。

全 6 話のストーリーの題材も、離島で独自の教義に変出した隠れキリシタンや、「ムー」めいたオカルト話、廃墟になった遊園地、孤島で残酷な研究にふける人物など多彩だ。こういう題材の選択は、過去のホラー作品への言及なのかもしれないと感じた。例えば、隠れキリシタン諸星大二郎妖怪ハンターを思いださせるし、第 5 話に出てくる「人間とそっくりだが、人間より存在感の薄いなにものか」からは伊藤潤二の奇想を連想した。(ちなみにぼくは第 5 話が一番好きだ。ラストで怪奇現象に過剰適応してしまって、おかしくなった夫婦は、日野日出志の『ジパングナイト』に出てくる殺人鼠と共生する一家を思い出させた。)

キャラクターもこのマンガの魅力だ。画面が暗いので、登場人物の顔が白く美しく見える。とくに美しく書かれているのが当然ヒロインの早川だ。番外編以外ではほとんどセリフを発しないが、思わせぶりなしぐさや光がこぼれるような目が印象的だ。

脇を固めるキャラクターたちも個性的だ。岸田の友人の小泉はニキビ面でメガネをかけた小太りの少年といかにもな「主人公の友人類型」といった感じだが、岸田の母をファーストネームで呼んだり、学校中の女子の写真を持っていたりおもしろい。秀逸なのが小泉の属する郷土史研究(のちオカルト研究)の会長の式野さんだ。登場時点では猫をかぶっていたが、傲慢で人を人とも思わない行動をとり、やるなと言われたことをやって事態を悪化させていくホラーの展開には欠かせない役回りの美少女だ。

主人公の岸田も個性という点では、脇の人たちに負けるが、伊藤潤二の作品に出てくるような少し猫背(第 2 話の早川の葬式のシーン)の美少年だ。

というわけで、久しぶりにホラーマンガを読んで大変面白かった。この本には第 1 巻と書いてないのでこれで終わりかと思ったけど、ネットで見たらまだ月刊チャンピオンREDで続いているらしい。嬉しい! しかし、人気がないと第 2 巻が出るかどうかわからないようなことも書いてある。。。。。。とても面白いマンガだったのでどうかぜひ売れて、ひよどり先生が書ききるまで続いて欲しい。