Brandon Carter 「巨大数の一致と宇宙論における人間原理」(1) - わが忘れなばの続きです。第二章と第三章を訳しました。
2.伝統的な種類の予測
Bondi のリストに挙がっている最初の「巨大数の一致」は、恒星の大きさや色には―白色巨星から赤色矮星まで(もっと最近では中性子星も)―さまざまな種類があるのに、その質量 は必ず重力結合定数 の逆数と(10 の一乗か二乗の範囲内に収まるという意味で)同じケタ数を持つ、という観測事実だ。ただし、 は陽子の質量である。バリオンの総数を と表したとき、この関係は次のようにあらわすことができる。
、 (1)
ここで、両辺ともに 程度の大きさである。Jordan(1947) はこの一致を説明するためには革命的な宇宙論的説明が必要だと考えたが、現在では拡散していたガス雲が凝集して恒星形成するという通常の理論によって予測できることを多くの人が知っている。基本的な考え方は次のようなものだ。恒星の原型は、不安定なので、分裂によって質量を失い続け、非相対論的なガスの圧力によって支えられることができる十分小さい単位に分かれるまで続く。そして、条件(1)が満たされたときそうなる。この点を超えると、恒星は安定になるので、これ以上の細分化は起きないのであろう。(私は、最近の記事 J.Phys.34,c7-39,1973. で、安定性の限界である式(1)を求めるための有名なスッテプを簡単にまとめておいた)
3. 弱い人間原理に基づく予測
二つ目の「巨大数の一致」は宇宙のハッブル膨張率が、10 の数乗の範囲で先ほどと同じ巨大数の逆数と等しくなるというものだ。つまり、
。(2)
Dicke (Nature 192,440,1961)は、もし宇宙の現在の年齢 t が純粋にランダムに決定されたものではなく、典型的な主系列星の寿命と同じケタ程度になっていそうであることを受け入れていたならば、この関係も予測することができていただろうと指摘した。これはもっともなことだ。なぜならもっと時間が過ぎれば、銀河にはエネルギーを生産する星がほとんどなくなってしまうし(しかも、残っているものも非常に少ないエネルギーしか生産しないだろう)、もっと前では(生命にとって不可欠に思える)重元素はできていなかっただろうからだ。太陽よりもいくらか大きい典型的な恒星では、冷却効率は Thompson 散乱によって決定し、光度は次の式でおおまかに推定できる。
、
ただし、 は電子の質量で、で、である。もし全質量エネルギーが利用可能なら、寿命はで与えられる。ただし、である。実際に利用できるエネルギーの率 を考えると は無視できるので、典型的な主系列星の水素が燃え尽きるまでの寿命が得られる。よって、宇宙の現在の年齢のおおまかな推定は、
。 (3)
となる。この予測は、宇宙における我々の位置は、必ず、観測者としてのわれわれの存在を許すくらいに特権的であるという事実を考慮に入れておかなくてはならないという「弱い」人間原理(強調引用者)による予測のよい概観である。開かれた宇宙において(あるいは圧力が支配的な閉じた宇宙においても)式(1)によって与えられる質量を持った恒星は、Thompson 散乱の宇宙論によって、
(4)
となる。よって予測(3)からは(これ自体は、銀河の年齢の推定することで直接的に証明できる)、自然に(2)という宇宙論的関係が予測できる。
宇宙論の用語が分からなくて、訳すのに苦労しました。"Hubble fractional expansion rate"、"opacity"、"luminosity"の定訳をご存知の方、ぜひご教授ください!
次は、第四章を訳します。(全五章)