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わが忘れなば

備忘録の意味で。タイトルは小沢信男の小説から。

Brandon Carter 「巨大数の一致と宇宙論における人間原理」(4)

Brandon Carter 「巨大数の一致と宇宙論における人間原理」(3) - わが忘れなばの続きです。

第五章 世界アンサンブルと重力定数

 最後の手段として、それ以上強い物理学的な言説がないときに、強い人間原理に基づいた予測を、「世界アンサンブル」という観点に立った思考による説明に昇格させることは、もちろん哲学的には、常に可能なことだ。この言葉によって私は可能な限りのすべての初期条件と基本的な定数(この二つの間の区別は、それほどはっきりしたものではないが、前者が本質的に局所的な性質に、後者が全体的な性質に関係している)によって特徴づけられる宇宙のアンサンブルを想定している。観測者として記述可能な生物の存在は、いくらか制限のかかったパラメータの組み合わせにおいてのみ可能であり、世界アンサンブル内のその部分は例外的な認識可能部分(コグニザブル・サブセット)として区別される。強い人間原理に基づいた予測は、考察されている性質は、コグニザブル・サブセットの全要素に共通の性質であるということを示しているとみなされるかもしれない。世界アンサンブルにおけるある種の基本的な事前確率を測ることが定義可能である条件の下では、コグニザブル・サブセットの"ほとんど"の成員で成り立つことを示すことで、もっと一般的な種類の予測をすることさえ可能であるだろう。

 (もちろん、もっと通常の種類の説明ができるという可能性に絶望してしまう理由は何もないが、)このような方法で説明できるかもしれない宇宙の性質の一つには、なぜ重力結合定数はこれほど弱いのか、というものがある。その説明につながる糸口は、さまざまな種類の星の全体的な性質が m_{p}^{2} の変化によって、質的な変化なしに、スケールアップないしダウンしている(J.Phys.34.c7-39,1973 で導出された図を見よ。)のに、重要な例外として、主系列星の質的に異なる(主に放射転送によってエネルギーを生産する)青色巨星と(主に対流によってエネルギーを生産する)赤色矮星への分裂があるいう事実である。これは本質的に電磁気結合定数e^{2}と質量の比m_{e}/m_{p}に関係している重力結合定数m_{p}^{2}の実際の値に依存している。

 質量の軽い主系列星が対流優勢であるのは、本質的に放射伝達では表面温度 T_{e}を臨界温度-Rydberg エネルギー \frac{1}{2}e^{4}m_{e} の10分の一かそれ以下-以上に挙げるのに十分でないからだ。それ以下では、イオン化と脱イオン化反応が断熱指数を下げ、その結果局所的な不安定が生じる。Hayashi によって初めて重要性が認識された過程によって、これが対流を起こし、温度が臨界温度より著しく低下するのを防ぐ。小さすぎない(放射圧優勢の)星では、(1)によって与えられる質量を持ち、(3)の導出のためにすでに言及しておいた Thomson 散乱公式によって、表面流 T_{e}^{4} のおおざっぱな推定

T_{e}^{4}\sim 10^{-2}e^{-4}m_{e}^{2}m_{p}T^{2}

が導かれる。ただし、T は中心温度であり、これは次のように大雑把に与えられる。

T\sim 10^{-2}e^{4}m_{p}

(水素燃焼に必要なクーロン障壁侵入に必要な温度から計算された。)イオン化エネルギーに比べて小さな T_{e} であることを避けるためには、

m_{p}\g \sim e^{12}(\frac{m_{e}}{m_{p}})^{2} (15)

が必要である。この条件は-かなり驚く駅偶然によって-満たされている。結果として重い(放射圧優勢な)主系列は事実上対流的であるが、小さい(冷却効率が自由―自由転移や束縛―自由転移によって Thompson の値よりも増加しているようなな)主系列星は圧倒的に対流的である。もし重力定数が(15)で与えられる値よりも小さかったのならば(あるいは、詳細な構造定数が微量しか増加していなくて、他のパラメータが固定であれば、)主系列星は完全に対流的な赤色星からできていただろう。逆に、もし重力結合定数がそれ以上に強かったら(あるいは詳細な構造定数がごく微量減少したら)主系列惑星は放射優勢な青色星からできていただろう。

 これは創造可能な世界のアンサンブルによって、重力結合定数の弱さが説明されたことを示唆している。星の形成は高度に対流的なな林トラック相の存在に依存しているのだろう。(惑星形成の理論はいまだに確立していないのだから、このような考えは高度に思弁的なものであるが、しかし、大きな星では角運動量の方が対流よりも保持しているというような実験的事実と適合している。)もしこれが正しいのなら、強すぎる重力結合定数は星の形成や観測者の存在に相応しくなかっただろう。世界アンサンブルにおける事前確率を図って結合定数の値をおおむね1で受入れるものだったら、重力結合定数のケタを完全に説明したことになるだろう。

 類似のしかしもっと強力なことがらが、核物理学の基本的な定数への a priori な制限をかけることで言える。例えば、「強い」結合定数は、核子同士を結合させるぎりぎりの強さであるとことはよく知られている。もしこれが少し弱かったら、水素が唯一の元素であり、おそらく生命は誕生していなかっただろう。

 説明としてのこの種の予測を受け入れることができるかは、その人の世界アンサンブル概念への態度によって決まる。多くの宇宙が存在し、その中のひとつしかしることが出来ないという考えは、一見哲学的に望ましくないように見えるかもしれないが、 慮し論の内的な論理によって事実上必然である Everett の説(B.S.De Witt:1967,Phys.Rev.160,113 を見よ)にくらべてそれほど離れているわけでもない。Everett の説によれば、宇宙は、もっと正確には宇宙の状態ベクトルは、分岐し、どんなに上手く定義した観測者によっても、(すべてが等しく"現実"であるにも関わらず)一つしか知ることができない。この説は、私が記述しようと試みた世界アンサンブルの哲学ととても自然に適合するだろう。

 私は個人的にはもっと深い数学的な構造に基づく基本的な結合定数等の値の説明を聞くことができれば、もっと嬉しいのだが、それでも、強い人間原理によって諸パラメータに a priori な制限を加えることには意味があると考える。もし、このやり方によって厳密な限界がいつでも得られることが分かったのなら、もっと基本的な数学的な構造からの導出の試みが上手くいかなかった場合に、世界アンサンブルの哲学を真剣に取り上げるべき証拠となりうるかもしれない―好きではない人がいても。

議論
Icke あなたは、定数の値にのみ言及しました。あなたの考えでは、自然のこれらが何故定数であるのか説明できるのでしょうか? 

Carter もちろん、一旦、詳細な構造「定数」e^{2}や重力結合「定数」m_{p}^[2}がある宇宙と別の宇宙で変化する可能性を受け入れたのなら、一つの宇宙で変化する可能性も考慮することができます。しかしながら、(多くの物理学者同様)私も観測事実に適合するもっとも単純なモデルをもとに考えることを好みます。そこでは、時空間における特定の量を事実上の定数として扱っています。(比m_{e}/m_{p}や電磁気結合定数e^{2}については、非常に小さな変化にも反対する強力な証拠があります。重力結合定数m_{p}^{2}についてはもう少し証拠が薄いといえます。 Brans Dirac 理論によって提唱された小さな変化は完全には排除されていません。)

 量子的な、e^{2}m_{p}^{2}が世界アンサンブルにおける Everett-Hilbert 空間における演算子として扱われるような、観点からすれば、どんな宇宙においてもこれらが定数であることは、多分、それらが他のすべての「物理的」演算子と関係しているという超選択則から導かれるでしょう。この様な規則は宇宙の全電荷 Q のような演算子と関係している標準に理論においては既になじみ深いものです。

ひぃー、やっと訳し終わりました。(図は省略しております)分からないところが多かったので、ご意見・ツッコミなどおまちしております。。後日、疑問点などを整理するつもりです。