わが忘れなば

備忘録の意味で。タイトルは小沢信男の小説から。

飯山雅史『アメリカの宗教右派』(2008、中公新書ラクレ)

 3/12-13 で読んだ。再読だったし、『知って役立つ キリスト教大研究』を読んでプロテスタントの教派について情報を仕入れた直後だったので読みやすかった。

 本書の内容は、1) 福音派と呼ばれる層を支持層とする「宗教右派」の成立に至るのアメリカのキリスト教の歴史、2) 宗教右派共和党の指導者たち レーガン(80年代)、ギングリッチ(90年代)、ブッシュ(2000年代)と3 度に渡って政治的に大きな力を振るった(と同時にその都度一時的に勢力を落とした)背景とメカニズム、3) 宗教右派を支える福音派=宗教保守層の分析・アメリカの社会学者たちの研究の紹介としてまとめられよう。

 以下個人的に興味深かった点を箇条書きにしてみる。

  1. アメリカにおける「政教分離」は、政治家と宗教を切り離すことではなく、「連邦政府に自分たちの宗教に口出しさせないこと」である。
  1. 福音派原理主義の違い。福音派は、積極的に政治・社会へ関わろうとする人たちだが、原理主義者たちは、自分たちの純粋さを保つために世間と自分たちを切り離そうとする。
  1. 実は「福音派」といっても定義が結構あいまいであること。
  1. 政治的に挫折した福音派からは、近年、環境問題や貧困問題に取り組む「宗教左派」が生まれていること。
  1. なぜ宗教右派が支持されるのか、「支持者が権威主義者である」とか「アメリカと言う自由社会で没落した社会的な復讐心を抱えたものである」とかの仮説が出されたが、いずれも実証研究で否定され、宗教右派を支えたのは「社会のリベラル化がいきすぎたと感じる普通のアメリカ人である」と示されたこと。(Robert B. Fowler et.al. Religion and Politics in America, 1995)
  1. 福音派の政治参加・共和党支持は、共和党の老練な政治家・政治参謀たちの策謀に乗っけられたような側面もあり、必ずしも彼らの思い通りには事は運ばなかった。

 これは、第 7 章の最後の当りに簡潔にまとめられている。

宗教右派の第一の興隆期である1980年代に、共和党は、この奇妙な新興勢力が票を集めてくれることを歓迎はしたが、あまり真剣に相手はしなかった。第二の確立期である1990年代では、共和党は、モンスターに成長した宗教右派のパワーに恐れをなし、ギングリッチの暴走をコントロールすることもできず、黄金の中間地帯からそっぽを向かれて支持率を落とした。だが、第三の全盛期である2000年代になると、共和党宗教右派を"同志"そして迎え入れ、赤じゅうたんを敷いて厚遇はしたが、決して宗教右派の捕らわれの身になったわけだはない。むしろ、共和党の集票マシーンとして、宗教右派を手なずけていったと見る方が正確かもしれない。
(p.169)

 以上気になる点を思いつくままにまとめてみた。

 興味深いテーマを分かりやすくかつ掘り下げて説明した本で、大変面白かった。関係するほかの本なども読んで、メインブログの方に福音派について本格的な感想をまとめてみたい。

 索引がないのは、残念だったが、目次の立て方が分かりやすかたので、又再読するときに苦労は少なそう。各章の冒頭で、簡単なイントロダクションが付いてたり、初出の人名がボールドだったりと親切設計なのには好感。