古山高麗雄『二十三の戦争短編集』を読みかえしていたら。
若い人のために、旧軍隊で行われた私刑についても、説明しておこう。
とても全部は書ききれないが、ビンタにも、対向ビンタといって、上級者は自分では手を下さず、二人を向かい合わせて、互いに殴らせるというのがあった。整列ビンタといって、一列横隊に列ばせて、一人一人順次に殴って行くというのもあった。鶯の谷渡りというのは、寝台の下を潜らせて、寝台と寝台の間から首を出させ、ホーホケキョと言わせる。内務班のずらりと並んだ寝台を次々に潜らせて、ホーホケキョを繰り返させるのである。蝉というのは、柱に抱きつかせてミンミンだとか、ツクツクボウシだとか、言わせるのである。自転車というのは、部隊によっては、郵便局だの電報配達だのと言っていたようだが、テーブルとテーブルの間で、テーブルに手をついて体を宙に浮かせ、自転車のペダルを踏むかたちで、両足を交互に漕ぐのである。私刑の施工者は、速力を上げろだの落とせだのと号令をかけて、面白がるのである。女郎屋というのは、銃架を遊郭の格子に見たてて、ちょっとお兄さん、寄ってらして、ちょっと、ちょっと、などと言わせるのである。
そのほか、旧軍隊では、汚れた雑巾で自分の顔をふかせたり、靴の裏を舐めさせたりした。私たちいわゆる戦中世代の者は、そのような醜いことをして人を愚弄したり、愚弄されたりしたのである。
(「戦友」p.248)
あっ、「蝉」と「自転車」って藤子不二雄 A の『黒ベェ』で陰険な軍隊帰りの会社社長が新人社員を軍隊式社内合宿でイビルのにやってたな、と思い出した。
あと、最近少し読み返した『右向け左!』でも、「バイク」という似たようなシゴキがあったな。
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