伊丹十三「最終楽章」(『ヨーロッパ退屈日記』)に少年時代の伊丹に強い印象を残した「放浪のピアノ弾き」という人物が出てくる。
放浪のピアノ弾きはわたくしに向かって、
「チボーとコルトーだね」といった。
そうして詩集をちらっと見て、
「おや、村上菊一郎先生だ」といい当てた。こんなふうに、興味がいきなり演奏家や訳者にむかうということが、わたくしにはいかにも高級なことのように思えたが、つまりこれが演奏家の神経というものなのだろう。
ピアノ弾きは一向デビューしなかった。十年ばかり経ってわたくしが結婚する時、彼は式場にやって来て、『フランス組曲六番』を弾いてくれた。彼は今創価学会の幹部になっている。
- 1924 年生まれで、伊丹より 9 歳年上。
- 有島武郎・生馬、里見トンの甥で若いころ「あえて清貧(せいひん)を選ん」で「青春の探究のなかで、法華経に興味を抱き」「学会員の知人を介して、杉並の組織で入会した」たらしい。
- 創価学会の「音楽隊」の初代隊長で、民主音楽協会理事、1967-90に衆議院議員で公明党中央統制委員も務めた。
幼少からピアノを習い、慶応幼稚舎三年の時、都内のコンクールで優勝し、/新聞で「天才ピアニスト誕生」と書かれたほどであった。
一貫教育で、慶応大学の工学部(現・理工学部)に学んだ英才である。
恵まれた境遇だったが、あえて清貧(せいひん)を選んだ。
青春の探究のなかで、法華経に興味を抱き、ある寺で教えを請うた。すると、「法華/経なら、創価学会の戸田城聖という人物が詳しいらしい」と言われた。
そこで、学会員の知人を介して、杉並の組織で入会したのである。昭和二十六年の/六月、二十七歳になる直前であった。
後に黛敏郎を交えて鼎談もしている。(「われら正統派の旋律(てい談)」、潮 (114), 156-167, 1969-07 )
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