わが忘れなば

備忘録の意味で。タイトルは小沢信男の小説から。

科学界の「キャンセルカルチャー」論争の最近の展開

この科学界の「キャンセルカルチャー」をめぐる論争についてこれまで三回記事を書いてきました。
最近の動静について簡単にまとめます。

wagawasurenaba.hatenablog.com

この論争の発火点を正確に特定することは、そんなに容易でもなく、また意味のあることでもないかもしれません。同じような議論は、過去から延々と続けられていて、別の名前で整理されていた事態の延長線と考えることもできるからです。しかし、「キャンセルカルチャー」という単語がで始めたあたりの2020年代の話をとりあえずの始まりにしたいと思います。

幾人かの影響力のある科学者が現在のアカデミズム内部では左翼による言論の検閲が行われ、「キャンセルカルチャー」によって言論の自由が脅かされていると警告しました。
それに対して、また別の科学者やサイエンスライターが、「キャンセルカルチャー」などは存在せず、問題となる発言内容とそれに対する批判があっただけだと反論しました。

基本的には、この繰り返しが起きたことだと言えると思います。

具体的な名前を挙げながら経緯を辿ると、有機化学者トーマス・フドリツキーが2020年にAngewnde Chem. Int.誌に発表した記事が、twitterなどで批判を受けて編集部に撤回されました。
翌2021年Journal of Physical Chemistry Letters誌に理論化学者のアンナ・クリロフが、「科学を政治化することの危険 The Peril of Politicizing Science」を発表し、スティーブン・ピンカーなどの言及もあって大きな反響を呼びました。
それに対して、2021年から2022年にかけてサイエンスライターのフィリップ・ボールや理論化学者のジョン・ハーバートらが、同じJCPL誌で反論を行いました。

またこの間、クリロフはいくつかのオピニオン・エッセイを出しています。

2023年には、Digital Discovery誌の創刊号に「アカデミックの言論の自由なのか、右翼の泣き言なのか? Academic free speech or right-wing grievance?」という題で、ハーバートが単独で、「アカデミックの言論の自由」「キャンセルカルチャー批判」側への包括的な反論を行いました。

さらに同じく2023年にアンナ・クリロフのほかにピーター・ボコジアンや生物学者で新無神論の論客であるジェリー・コイン、さらにノーベル賞受賞科学者二名を含む連名論文「科学における業績の擁護 In Defence of Merit in Science」がJournal of conraversial ideasに発表されました。合わせて、専用サイトも立ち上げられました。

ここまでが、これまでの記事で紹介してきた経緯です。

その後も多くの展開があったのですが、内容については、まとめきれていません。今後もできれば、追って行きたいです。

その後の展開については、論考へのリンクだけ載せておきます。

まず、ハーバードの論文(Digital Discovery, 2023)です。
pubs.rsc.org

次に、クリロフ、ピンカーも著者に入ったPNAS誌(2023)の「科学者による科学検閲のもとになる向社会的な動機:見通しと研究アジェンダ Prosocial motives underlie scientific censorship by scientists: A perspective and research agenda」です。
www.pnas.org

さらに、2025年には、この話題について、Journal of Controversial Ideas誌について特集が組まれました。筆者には、クリロフやコインも入っています。
journalofcontroversialideas.org

2024年には、Fronteier誌に「科学基金の政治家によって科学の信頼、言論の自由、バイアスのない知識の生成が木津つけられている Politicizing science funding undermines public trust in science, academic freedom, and the unbiased generation of knowledge」が発表されました。これもクリロフを含むJournal of Controversial Ideas誌の筆者が参加しています。
www.frontiersin.org

2025年には、ハーバートがarxivにFronteier誌の論考への反論を発表しました。
arxiv.org

エリック・カレイラの手紙事件

エリック・カレイラは、有機化学の研究者で、Journal of the American Chemical Society(JACS)という化学を代表する学術誌の編集長(Editor-in-Chief)を2021年から勤めています。ヒスパニック系では初めての編集長だそうです。*1

カレイラは、2010年ごろにその昔ある研究室メンバーに出した手紙の内容が流出して、それ以来たびたび批判を受けていました。
最初に流出したのは、Chemistry blogに投稿されたもののようです*2手紙を送られたギド・コッホが公にしたものではなく第三者が投稿したものです。

Guido,
ギド、

I would like to provide for you in written form what is expected from you as a member of the research group. In addition to the usual work-day schedule, I expect all of the members of the group to work evenings and weekends. You will find that this is the norm here at Caltech. On occasion, I understand that personal matters will make demands on your time which require you to be away from your responsibilities to the laboratory. However, it is not acceptable to me when it becomes a habit.

あなたに研究室の一員であることで何が期待されているかということを書面でお伝えしたいと思います。通常の勤務日に加えて、私は研究室のすべてのメンバーに夜間と週末の作業を期待しています。ここカリフォルニア工科大ではそれが普通だというのはすぐにお分かりになるでしょう。たまには、個人的な事情によって研究室における責務を離れざるをえないことは理解しています。ただ、それが習慣になることは私には受け入れ難いことです。

I have noticed that you have failed to come into lab on several weekends, and more recently failed to show up in the evenings. Moreover, in addition to such time off, you recently requested some vacation. I have no problem with vacation time that is well earned, but I do have a problem with continuous vacation and time off that interferes with the project. I find this very annoying and disruptive to your science.

ここ何週間かあなたが週末に研究室に来ていないことに気づいていましたし、もっと最近では平日の夜もあなたはいませんでした。あまつさえ、このような小休暇に加えて、長期休暇を申請しましたね。懸命に働いた人がご褒美として長期休暇を取ることはなんの問題もないと思います。しかし、絶え間なく長期休暇や小休暇をとってプロジェクトに悪影響を及ぼすのは本当に困ります。私はこのことを大変不快に思っていますし、あなたの研究にも悪影響を及ぼします。

I expect you to correct your work-ethic immediately.I receive at least one post-doctoral application each day from the U.S. and around the world. If you are unable to meet the expected work-schedule, I am sure that I can find someone else as an appropriate replacement for this important project.

あなたが労働倫理を直ちに是正することを望んでいます。私はアメリカ国内だけでなく、世界中から少なくとも一日に一通のポスドクへの応募を受け取っています。もしあなたが、求められるスケジュールで働けないのなら、この重要なプロジェクトのために誰か適当な代わりを見つけることは間違いなく簡単なことです

この流出以来カレイラは、この昔のメールがいろいろな波紋を起こすことに、ナーバスになっていたようです。嫌がらせのようなメールが来ることもあったそうです。「あれはサタイア(風刺)として書いたもので、文脈を無視して受け取るべきではない」というような反論コメントを出したこともありました。

そこからさらに10年くらい時が流れて、カレイラはJACS誌の編集長という栄光ある地位につきました。

すると、twitterなどを中心に、「あの有名なアカハラメールの教授が!」とかなり怒りの声が巻き起こり、change.orgで「カレイラの編集長就任をやめさせろ!」というキャンペーンまで始まりました(ただ、四人しか署名しないで終わったようです)*3

最終的にカレイラは、JACS誌のtwitterアカウントに声明を出して、昔のメールを謝罪し、それで直ちにというわけではないでしょうが、まあ、騒動はおさまりました。



I regret writing this letter, as it in no way reflects my leadership approach today. I have made peace with those impacted by the letter.

この手紙を書いたことを後悔しています。私の指導のやり方とはもはや何も関係ありません。私はこの手紙で影響を受けた人たちとは和解しています。

In the decades since it was written, I’ve grown as a teacher, as a mentor, as a researcher and as a person. I am proud of the way I work with my colleagues and students and believe that a healthy work-life balance is now more important than ever.

これが書かれてからの二十年以上の年月で、私も教師として、指導者として、研究者として、そして人間として成長しました。私は同僚や学生たちと成し遂げてきたことに誇りを抱いていますし、健康的なワークライフバランスがかつてなく重要になったと信じています。

Whether I am leading a lab or leading a journal, I am committed to promoting a sustainable and positive cultural shift in our industry.

研究室の指導者としてであろうと、主要な学術誌の編集長としてであろうと、私は、私たちの業界の持続可能で前向きな文化的な変革の推進に尽力していくつもりです。

このステートメントには、「つまり、これからはもっと上手く(アカハラを)やるってことだね」というコメントがついていました... 
ちなみに、手紙を送られたギド・コッホは現在は製薬会社を創立してCEOを務めています。*4

このエピソードは、かなり有名かと思いますし、ぼくも2010年代やJACS編集長が内定した時にもみていましたが、今更思い出してブログの記事にまとめてみました。

For better scienceの記事などを参考にしました。*5

紹介:The history of sex research: Is “sex” a useful category?

Beans Velocciという科学史の研究者の書いた「性の研究の歴史:”性”は有用なカテゴリーか?」というCell誌に発表された論考(2024)を読みました。(”Focus on Sex and Gender”という特集の一部です)下記のリンクから無料でアクセスできます。

The history of sex research: Is “sex” a useful category?: Cell

簡単に内容を紹介したいと思います。

「性(sex)」の研究史において、この言葉は、複数の整合しない意味を同時に担ってきました。このようなタームを研究の変数として使用することが本当に正しいのか?を科学的、科学技術社会論的に検討するというのがこの記事のテーマです。

19世紀から20世紀にかけて、欧米の生物科学では、性器、性腺、ホルモン、代謝、あるいは染色体が性を定義する基盤であるというモデルが提唱されてきました。しかもこれらのモデルは、新しいモデルの登場によって置き換えられるのではなく、同時に存在し続けることで様々なモデルの歴史的堆積が生じ、性というタームは不整合なカテゴリーになっていったと、Velocciは指摘しています。

Velocciは、科学研究においては、その研究における「性」の意味をはっきり定義して使うべきだと提言します。特に二値であることを前提にして曖昧に「生物学的な性」などの用語を使うことが、トランスジェンダーやインターセックスの人々を巡る社会的な議論に影響を与えることを懸念しています。そして、実際に、すでに生物学のコミュニティにおいても単に「性」や「生物学的な性」などの曖昧な用語は使わないようにというガイドラインが出されています。以下は、「性」の多義性についてのCell誌のガイドラインを引用した部分です。(この部分は、Cell誌のガイドラインとして引用されていましたが、正確には、Cell誌を含むElsevierの多くの雑誌が採用している投稿ガイドラインかもしれません。同じ表現は、以下のリンクにもありました。 
https://www.sciencedirect.com/journal/sexual-and-reproductive-healthcare/publish/guide-for-authors

‘‘[T]here is no single, universally agreed upon set of guidelines for defining sex,’’
‘‘‘[S]ex’ carries multiple definitions’’ including genetic, endocrinological, and anatomical features... Contributors should therefore reduce ambiguity by specifying their methods for collecting and recording sex-related data to ‘‘enhance the research’s precision, rigor, and reproducibility.’’
「性を定義するための唯一の普遍的なガイドラインとして賛成を得られているものは存在しない」「性は遺伝的、内分泌学的、解剖学的な特徴などの様々な定義を伴うので」執筆者は、性に関わるデータの収集に使用した手法を特定することで曖昧性を低減するように努め、「研究の正確性、厳密性、再現性の向上を図るべきである」

さらに、Velocciは、T. クーンの定常科学において理論からの外れ値が「例外」として集積していくとことによって既存理論からのパラダイムシフトが生じるという議論を引用します。インターセックスなど既存の「性」のモデルと整合しない事例に対しても、生物学者は、「例外」として扱うことが多かったわけですが、そもそも「性」自体が、自然に対して整合的なカテゴリーではないのでは?特にオス・メスの二値でとらえる「性」は、生物学者が属している社会の観念の反映であって、身体の実際を測る尺度として適切ではないのでは?と指摘します。

一見すると「性(sex)」というカテゴリーそのものを否定する過激な主張に見えるかもしれませんが、性の本質主義的な理解を批判したものとして、十分に検討に値する議論ではないでしょうか? 様々な身体的な差異を性という単一のカテゴリーに押し込めることは、生物学的にも無理があり、社会的にも良くない影響があるという懸念の表明だと思いました。これらの指摘は、生物学に対する科学史・科学技術社会論からの問題提起と言えそうです。しかし、Cell誌を含む一流誌のガイドラインに「性に単一の定義はない」と書かれていることを考えると、生物学の現場でも、すでに十分に意識されている問題に見えます。

少なくともこの記事やCell誌のガイドラインを読むと、「性」の定義は生物学的に自明なものでも確立したものでもなく、そのカテゴリーとしての有用性の検討や明確化の試みは現在も続いていることが分かります。しかも、その仕事は生物学内部にのみとどまったものでもなく科学史や科学哲学との接続が可能なように思えます。

実際に次の研究は、人文・社会科学と生物学のコラボレーションの例も挙げられていました。

Beans Velocciは、現在ペンシルヴァニア大学のAssistant Professorを務め、「Sex Isn't Real - The Invention of an Incoherent Binary」(2026)という著作が出ています。

小山エミさん作成の英語ZINEのリスト

Twitterで、在米フェミニストの小山エミ(id:macska)さんが亡くなったことを知ってたいへん驚き、残念な思いだ。
小山さんは、日本語のネット世界には、fjの頃からいたらしいので、30年戦士だったはずだ。僕は、20年くらい前から特に2000年代半ばから後半にかけて、ブログや掲示板、twitterなどでたくさんの文章を読んだ。

フェミニズム、バックラッシュ、トランスジェンダー、哲学、アメリカの政治や映画など幅広いテーマについての深い議論から多くのことを学んだし、掲示板やブログコメント欄での有名・無名・匿名の人々との激しい舌戦に興奮し、小山さんのユーモアに爆笑したり論戦相手が言い負けて無惨な対応になっていく姿に苦笑したりしていた。

ネットのプラットフォームの流行の変化に従って、小山さんの活動の場も掲示板、サイト、ブログ、twitter、blueskyと移動して行ったようだが、時間の経過とともに過去の活動が人目につきにくくなったり、消えてしまったりしたらとても悲しい。そう思って、現在見つかる小山さんの管理していたサイトをまとめようと思ったら、小山さんの友人・共同研究者の人たちが、「小山エミさんの著作リスト」をまとめていた。

小山エミさんの著作リスト
webfemi.wordpress.com

そこで、このページでは、小山エミ(macska)さんが出版した英語のZINE(冊子)のリストをネットの情報をもとにまとめてみた。

小山さんの英日言語での言論活動はネットでの発信、本や雑誌など活字メディアへの寄稿、学術論文、ZINEの発行などに渡るようだが、調べてみると、ZINEに発表された論考が学術論文に書き直されたり、書籍に再録されたりなど、ZINEの発行は、特に2000年代の英語における小山さんの言論活動において中心的な位置にあるように感じた。

またこれらのZINEが、多くのものが小山さんのサイトで公開されている(いた)ことにも今回初めて気づいた。

小山さんのサイトで公開しているかされていたPDF版が現存するものについてはリンクを付した。また、現物は、多くがコロンビア大学のZINE COLLECTIONに所蔵されているようだ。

今後も随時更新予定。

1999

The transfeminist manifesto : and other essays on transfeminism

収録:

  • 「The transfeminist manifesto」
  • 「I hated being a girl (or, how I became a transfeminist)」
  • 「Circus and silence: the official history of the feminist conspiracy」

備考:
「The transfeminist manifesto」はCatching a Wave: Reclaiming Feminism for the Twenty-First Century(2003)などに再録。

「I hated being a girl (or, how I became a transfeminist)」はFireweed: A Feminist Quarterly of Writing, Politics, Art & Culture issue 69に再録(?)。

2000

An Open Letter to Alix Dobkin

収録:

  • 「An Open Letter to Alix Dobkin」
  • 「Third wave feminism explained!」
The Propaganda 1999-2000: The First Year of the Feminist Conspiracy

収録:

  • 「The propaganda the best of 1999-2000」
  • 「Circus and silence: the birth of the feminist conspiracy」(再録)
  • 「How sex workers defeated mayor Vera Katz」
Whose Feminism Is It Anyway?

収録:

  • 「A New Fat-Positive Feminism: Why Fat-Positive Feminism (Often) Sucks and How to Re-Invent」
  • 「It Yours Or Mine」
  • 「Degrade」
  • 「To A Doctor Who Suggested That We Agree to Disagree」
  • 「Pop Quiz on Transracial Adoption」
  • 「Abuse of Power & Control within the Domestic Violence Shelter: A New “Power & Control” Wheel」
  • 「The Transfeminist Manifesto」(再録)
  • 「Whose Feminism Is It Anyway? The Unspoken Racism of the Trans Inclusion Debate」

備考:
「A New Fat-Positive Feminism: Why Fat-Positive Feminism (Often) Sucks and How to Re-Invent」は、「In The Women’s Movement Today: An Encyclopedia of Third-Wave Feminism」, 2005に再録。
「Whose Feminism Is It Anyway? The Unspoken Racism of the Trans Inclusion Debate」は、The Sociological Reviewなどに再録。

Raging Exotics: Transforming Silence into Language & Action (October 2000)

2001

Transfeminism: A Collection
  • 発行年:2001

備考:

  • 『The transfeminist manifesto : and other essays on transfeminism』
  • 『An Open Letter to Alix Dobkin』
  • 『Whose Feminism Is It Anyway?』

の合本または再編集版?。詳細未確認。

Teaching Intersex Issues: A Guide for Teachers in Women’s, Gender & Queer Studies

Emi Koyama and Lisa Weasel with the intersex society of north America

収録:

  • Introduction Why the five is not enough (by Emi Koyama)
  • The Problem How Intersex Issues are being taught (Survey by Emi Koyama and Lisa Weasel; Analyses by Emi Koyama)
  • Guideline Changing the way intersex issues are addressed (by Emi Koyama)
  • Curriculum Sample course unit on intersex issues (by Lisa Weasel)
  • Materials Selected materials for your classroom (compiled and annotated by Emi Koyama)

「From Social Construction to Social Justice: Transforming How We Teach About Intersexuality」(Women's Studies Quarterly 30 (3/4), 169-178)という論文の元になったブックレット。

2002

Instigations from the Whore Revolution: A Third Wave Feminist Response to the Sex Work "Controversy"

収録:

  • 「Support Prostitutes’ Movement Now!」
  • 「A Conversation with an Academic Feminist」
  • 「How Sex Workers Defeated Mayor Vera Katz」
  • 「Debunking the Anti-Prostitution Feminism」
  • 「Refusing to be safe」

2003

Interchange 3

備考:

  • メーリングリスト等での発言集成(#41-58)
Introduction to intersex activism : a guide for allies

寄稿:

  • 「Medical Abuse of Intersex Children & the Child Sexual Abuse」
  • 「Being Accountable to an Invisible Community」
  • 「Interrogating the Politics of Commonality: Building a Bisexual, Trans and Intersex Alliance」
  • 「What is Wrong with “Male, Female, Intersex”」
  • 「Adding the “I”: Intersex in the LGBT Movement」
Intersexcritiques : notes on intersex, disability, and biomedical ethics

収録:

  • 「A Letter to Intersex Society of North America」
  • 「Statement on ISNA/BDRC Research Collaboration」
  • 「What’s Wrong With “Male, Female, Intersex”: A Letter to Outside In」
  • 「Writing Our Own Monologues」
  • 「Eugenides Wins Pulitzer for Middlesex」
  • 「The Onion Parody Almost Realistic for Intersex Kids」
  • 「Intersex Info Censored at Public Libraries?」
  • 「Oregon Begins Mandatory Screening for CAH」
  • 「Double Standard and Eugenic Impulse in the Embryonic Research Debate」
  • 「Early Detection of Swyer’s: How Will the Information Be Used?」
  • 「Conjoined Twin “Tragedy”: Was Ladan Bijani Murdered?」
  • 「Doctors Receive $1.2 mil to Study “What’s Wrong With Intersex”」
  • 「FDA Approves Injecting Growth Hormone for Healthy, Short Children」
  • 「Letter to Daily Illini: Non-Discrimination Policy Is Not Enough for Intersex」
  • 「Letter to The New York Review of Books」
Teaching Intersex Issues: A Guide for Teachers in Women’s, Gender & Queer Studies (Second Edition)

寄稿:

  • 「Introduction」
  • 「From Social Construction to Social Justice: Transforming How We Teach About Intersexuality」(Lisa Weaselとの共著)
  • 「Medical Abuse of Intersex Children and Child Sexual Abuse」
  • 「A Sample Syllabus for “Intersexuality: An Interdisciplinary Exploration”」
  • 「Intersex Bibliography for Women’s/Gender/Queer Studies」
  • 「Suggested Guidelines for Non-Intersex Individuals Writing About Intersexuality & Intersex People」

「From Social Construction to Social Justice: Transforming How We Teach About Intersexuality」は同題の論文(Women’s Studies Quarterly, 2002)の再録(?)。

備考:
First Editionの発行年、内容については、未確認。

A Speaker’s Handbook for Intersex Activists & Allies
A handbook on discussing the Michigan Womyn's Music Festival for trans activists and allies
Disloyal to feminism : abuse of power & control within the domestic violence shelter system

収録:

  • 「Disloyal to feminism : abuse of power & control within the domestic violence shelter system」
  • 「Implementing Survivor-Centered Mechanisms to Hold Service Providers Accountable: A Workshop」

備考:
「Disloyal to feminism : abuse of power & control within the domestic violence shelter system」はColor of Violence: The INCITE! Anthologyに再録。

また、日本語訳は、「フェミニズムへの不忠 DVシェルターにおけるサバイバーへの虐待」入江恵子・和田淳子訳アウロラ発行がある。

2004

Intersexcritiques. Volume II

収録:

  • 「From Controversy to Consensus: An Activist Perspective」
  • 「Is “Gender Identity Disorder” An Intersex Condition?」
  • 「Recommendations for the SF Human Rights」
  • 「Commission Fundamentalists Pick Its Newest Enemy: Intersex People」
  • 「“Most Intersex People Support Surgery” Claim Disputed」
  • 「Intoxicated Sex Advice Columnist Ponders on Intersex」
  • 「Ian Anderson at AUA: “Doctors Should Stand In Shame”」
  • 「Unanswered Questions in Psych Study of CAH Women」
  • 「Dear LGBT Community Center」
  • 「Intersex “Caught in Crossfire” Between Talk-Show Hosts」
  • 「Open Access to Publicly-Funded Researches Benefits Patients」
  • 「Intersex Experts Call for “Culture of Full Disclosure”」
  • 「NBC’s “Law & Order” Episode Based on “John/Joan” Case」
  • 「UCLA’s Eric Vilain Expresses Support for Intersex Movement」
Interchange. Volume 4

備考:

  • メーリングリスト等での発言集成(#59-75)

2005

Intersexcritiques. Volume III
  • 「Being Accountable to the Invisible Community」
  • 「Associate Press Misuses the Word “Hermaphrodite”」
  • 「Intersex Births: Almost As Bad As Prenatal Death?」
  • 「Journal Acknowledges the Impact of Intersex Activism」
  • 「Japanese Manga Depicts Intersex Experiences」
  • 「Informed Consent and Clash Over Cultural Values」
  • 「Intersex People as “Saviours of Humankind”? 」
  • 「Reuters Story About Post-Vaginoplasty Sexual Function is Misleading」
  • 「Prenatal Diagnosis of Mixed Gonadal Dysgenesis」
  • 「Washington Times is Confused About What We Are Criticizing」
  • 「Transgender Medicine Experts Show Some Interest in Intersex」
  • 「SUNY Sexologist Defends John Money, Attacks ISNA」
  • 「UCLA “Brain Sex” Report Baseless and Irresponsible」
  • 「Medicine Regulates More Than Just Gender System」
  • 「Study Questions Sex Change Surgery for Children with Cloacal Exstrophy」
  • 「Pro-Surgery Doctors Continue to Ignore Patients, Refuse Discussion」
Interchange. Volume 5

備考:

  • メーリングリスト等での発言集成(#76-84)

2006

Interchange. Volume 6

備考:

  • メーリングリスト等での発言集成(#85-94)

2010

Surviving the witch-hunt : battle notes from Portland's 82nd Avenue, 2007-2010

備考:

  • PDF版には印刷版から削除されたページがある。

2011

War on terror & war on trafficking : a sex worker activist confronts the anti-trafficking movement
Understanding the complexities of sex work/trade and trafficking

2012

State Violence, Sex Trade, and the Failure of Anti-Trafficking Policies

2013

Adrie's guide to service animals : laws, rights, and maneuvers for people living with disabilities

2015

Against Japanese "Comfort Women" Denialism in the U.S. : an introduction to "comfort women" controversy

2016

Reclaiming harm reduction : a collection

Future of Humanity Institute の閉鎖とボストロムのオックスフォード大学辞職

ニック・ボストロムが2005年に設立して所長を務めていたオックスフォード大哲学科の Future of Humanity Institute が2024年4月16日づけで閉鎖になったようだ。ボストロム自身ももうオックスフォード大に属していないようだ。(現在は、Macrostrategy Research Initiativeという機関の首席研究員という地位にあるようだ)

www.fhi.ox.ac.uk

僕は、最初にエミール・トレス氏のtweetで知った。

その後、ガーディアン紙にも記事が出ている。

www.theguardian.com

誰もが、去年の「メール事件」の影響なのかと思うところであろう。

t.co

ただ、ボストロム自身が、自サイトに載せた「謝罪文」の2023年8月付の追記を真に受ければ、メールの件で研究所が廃止になるということはなさそうだ。

https://t.co/a5ZH1ZgaU5

FHIの旧メンバーが作成していると思しきFHIの業績やヒストリーをまとめたサイトでは、以下のような説明が書かれている。

t.co

FHI が属する哲学科から研究所への風当たりは前からきつく、'20年からは人事が凍結され、'23年の遅くにはFHIのスタッフの契約を更新しないことが決定し、'24/4/16に研究所が閉鎖になったそうだ。

ちょうど、ボストロムは、Anthropic Bias(2002)、Superintelligence(2014)に続く新著Deep Utopia(2024)を出したタイミングであったので、びっくりだ。

追記(5/2)

ガーディアン紙に本件に関する記事がまた出ていた。Andrew Anthonyというジャーナリストの執筆でトレスにもインタビューしている。スクープ的な新事実にあたる内容はないようだが、FHI発の思想である「効果的利他主義」や「長期主義」を強化版の優生学とみなすタイトルなどトレスの主張にも沿った手厳しいまとめだ。FHIへの逆風としては、ボストロムのメール事件だけでなく、効果的利他主義の擁護者で、ボストロムやFHIとも関係の深いマッカスキルとも親しい起業家のサム・バックマン=フリードの逮捕('22)もあげている。

www.theguardian.com

多様性か業績か-科学における「キャンセルカルチャー論争」(3)

以前、ウクライナ出身でアメリカで活動している理論化学の研究者 A. クリロフの「科学を政治化する危機」と言うオピニオンに端を発する 2021 年から 2022 年にかけての論争について2回に及んで紹介した。

科学における「キャンセルカルチャー」論争 - わが忘れなば

「科学と政治が不可分なら、我々はただそのことを受け入れなければいけないのか、それとも積極的に政治は科学に介入すべきなのか」-「キャンセルカルチャー」論争続編 - わが忘れなば

簡単にまとめると、最近の科学界や大学への"左派イデオロギー"の侵食が「キャンセルカルチャー」を招いていると憂うるクリロフのエッセイが非常な注目と共感(学術誌の記事に対して 10 万超の view!)を集めたことに対して、サイエンスライターの P. ボールや理論化学の研究者である J. ハーバート(と共著者たち)が反発し、科学を政治から切り離すことができるかのように語ることの危うさや「キャンセルカルチャー」なる語彙の胡乱さに対して警鐘を鳴らした、と言うものだ。

この間に、このイデオロギーと科学をめぐる論争に新たな展開があったのでしつこく紹介したい。

まずは、ハーバートが2023年2月に単独でこの論争というかそれを含む最近の潮流にに対して、総決算的な長編論文を発表した。*1「大学における表現の自由なのか、それとも右翼の恨み節なのか? "Academic free speech or right-wing grievance?"」と題された論文は、なんと参照文献が 700 超にも及ぶ一大巨編だ。

論調としては、既発の共著論文と同工の部分も多いのだが、目につくのはアカデミアにおける多様性への攻撃の背景には白人至上主義(人種差別)・女性差別・トランスフォビアの三つの要素があると批判している点と業績主義(meritcracy)の欺瞞をついているところであると考える。

この少し後 4月末日に、クリロフを責任著者とする著名な科学者・言論人 29 名が、「科学における業績の擁護 In Defence of Merit in Science」という論文を発表した*2。(以下、「業績論文」)この論文が発表された雑誌自体が、すでに話題含みで、Journal of Contraversial Ideas という他では出せない物議をかもしかねないアイデアを発表する場所を設けましょうというコンセプトでピーター・シンガーを含む哲学者が運営している雑誌(第3号)だ。

merit や meritocracy という語句は、「能力」、「能力主義」という訳語が選ばれることが多いように思うが、マイケル・サンデル『実力も運のうち』の本田由紀の解説によると、「功績」という訳語が適切だそうだ。ここでは、日本語の学術の世界では、「功績」に当てはまる言葉として「業績」という語がよく使われると思うので、「業績」にした。

この雑誌、過去の号にはデイヴィッド・ベネターなどの有名な人物も投稿していた。パッと目次を見た印象としては、ジェンダーに関するものが多く、他にも科学の道徳化を批判する論文など確かに物議をかもしそうな感じだ。ベネターは、ウクライナ侵攻で男性のみが出国を禁じられるのは、男性差別であるという op-ed を、他のメディアで掲載拒否されてここに出したようだ。雑誌のコンセプトページを見たら、雑誌の名前は、controverial だけど、ここの議論は unpolemical だと書かれていた。ここでいうポレミックって、「為にする議論」みたいなニュアンスかね? (JCI 誌の意義というかカラーについては、id:DavitRice さんの記事にも言及がある。*3

そして今回の「業績論文」だが、著者グループの内訳がなかなかの壮観である。まず、D. Shechtman と A. Warshel は、ノーベル化学賞の受賞者。さらに、統計的因果推論で有名な J. パールの名前もある。ここら辺は、学問の世界におけるスーパービッグネームなわけだが、シカゴ大の D. アボットは、もう少し違う理由で有名なようだ。アボットは、地球惑星科学の研究者だが、その発言をめぐって抗議がおき MIT での招待レクチャーが中止になるという事件が起きたことがある。これは、ハーバードの前述の単著論文でもいわゆる「キャンセルカルチャー」とされる事件の例として挙がっていた。さらに「不満研究」事件という偽論文で学術誌の編集を騙せるか試すというイタズラを『「社会正義」はいつも正しい』の著者たちと企画した P. ボゴシアンも著者に入っている。J. A. Coyne は、進化生物学者で新無神論の論客。おそれを知らない活発な議論提起をブログや著作で行っている。スーパービッグネームと剣呑な書き手や論客の同舟した論文だ。その他の著者たちについても簡単なバックグラウンドの紹介が論文の supplemet に載っている。(上記のように分野の多様性は相当だが、なんとなく理論化学が多めなのは、クリロフの人脈で著者を募ったからかもしれないと思った)

ちなみに、Coyne の著作では、『進化のなぜを解明する』という邦訳がある。また、「キャンセルカルチャー」関連では、インタビュー記事が日本語訳*4されていて、それに関する春日匠さんの一連の批判的な投稿*5がある。

今回は、時系列は前後するが、まずは「業績論文」の内容を紹介したのちに、これへのメディアや言論人の反応をまとめた上で、ハーバートの論文を紹介してみたい。

「業績論文」の趣旨を一言で要約すれば、多様性を重視するイデオロギーがアカデミアを支配しているために、科学の健全性が脅かされている、これを打破するためには科学の中核的な価値評価基準として「業績」を採用しなければならないということだ。さらにいうと、アカデミアを支配しているイデオロギーとは、「ポストモダニズム(postmordenism)」と「批判理論(critical theory)」であり、科学の健全性とは、R. マートンの言うような科学者集団の持つエートス、いわゆる CUDOS に担保されているものなのに、彼らの言う「ポストモダニズム」と「批判理論」は、客観的な真実の存在を否定し、CUDOSを攻撃することで、科学を危うくしている。CUDOS については、過去の記事でも言及したが、共有性(科学的知識は公共善である)、普遍性(科学的な結果の精査には科学者本人の人種や性別などが影響してはいけない)、利害の超越(科学者は個人的な利益のために研究を行うのではなく真理の追求のために行う)、系統的懐疑主義(結果が受け入れられる前に検証されなくてはならない)のことを言う。

CUDOS への言及は、クリロフの2021年の論文(オピニオン記事)の時からあったのだが、その際は wikipedia を出典にして言及していたのをボールに突っ込まれていたが、今回の論文では、マートンの『社会理論と社会構造』に言及している。

そして、「ポストモダン」や「批判理論」による学術や科学教育への攻撃とは、例えば男性や白人などマジョリティとされる集団が就職で不利になったり、脱植民地主義と称して薬学部で非ヨーロッパ由来の標準的でない民間医学のようなものがカリキュラムに組み込まれたりすることを指している。また、Science や Nature などの主要な学術誌がこれらのイデオロギーに侵食された特集を次々に組んで、「科学は植民地主義だ」とか「科学は人種差別だ」とか「業績ベースの評価ではなく、アイデンティティベースの評価を導入せよ」とか間違った方向に科学を導いていると批判する。著者たちに言わせれば、植民地主義だとか人種差別だとかはほとんど解決した過去の事柄であり、今更ポリシーとして科学に介入しようという筋合いではない、と主張する。(その証拠に、29 人の著者たちの中には、人種的マイノリティや女性も含まれているが、それぞれ業績を上げたために、十分な地位を築いている!と主張している)

ともあれ科学および科学者の評価軸として「業績」、それも数値化可能な定量的な「業績」を持ってくることが必要である。もちろん、業績主義や業績の数値化には弊害もあることは承知している。(分野が違えば評価が変わるとか、さして優れていない論文を大量生産した科学者と優れた論文を一報だけ書いた科学者をどう比較するのか、とか...)しかしながら、欠陥はあるといえども、業績による評価が最もマシなものであるのも確かなのである。

ちなみに著者たちは自分たちの立場を「リベラル」と呼び、ジョナサン・ローチやトーマス・ソーウェルといった評論家・学者を参照している。

以上がおおよその「業績論文」の主張だ。

これに対する大方の反応なのだが、実は下記のようなこの論文を広報するためのサイトができていて(多分、書き振りからして著者たちが作ったのだと思うが、明示的なクレジットは出ていないような...?)出版直後からこの論文に対する反応が集められている。

indefenseofmerit.org

例えば、リチャード・ドーキンスは下記のように強く賛意を評している。

この他にも、サイトを見ると、業績論文への賛意が多く集まっていて簡単に参照できるので、以下ではこのサイトに載っていなかった反応を紹介したい。

まず、科学哲学者の L. K. Bright は、業績論文へのポコジアンの寄与について以下のように推測している。

さらに、Science のエディター・ブログでは、この論文に関係して多様性を擁護する側からの意見が載っていた。曰く、科学は属人的でないから科学者のバックグラウンドと科学的な議論は関係しない(ので、多様性を目的とした雇用方針などを行わず、業績で評価すべし)的な意見に対して、実際の歴史を見れば、科学者のバックグラウンドがバイアスになってしまったことは多々あり、多様性を確保することでバイアスを補正することができる、と短く反論していた。(ちなみに著者で、Science の編集長(editor-in-chief)であるホールデン・ソープは、業績論文で名前を挙げて批判されていた)

https://www.science.org/content/blog-post/it-matters-who-does-science

この Science のブログに対しては、Coyne がブログで反論するという展開*6もあり、物議を醸すことを厭わない方針の JCI 誌の論文の中でも今までで一番盛り上がった論文がまさにこれなのではないか? 

業績論文は、最初 PNAS つまり米国科学アカデミー紀要というメインストリームの一流雑誌に投稿して拒否されたものを JCI 誌にあらためて投稿し、査読を経て掲載されたのだそうだ。他誌では読めない論説が読めるという JCI 誌の存在意義が発揮されたわけだ... (ベネターの op-ed や業績論文の次の巻に載ったアラン・ソーカルの論文も他誌での拒絶をへて、JCI 誌に掲載されたものだ)

少し長くなってしまったので、ハーバートの2023年2月の論文「大学における表現の自由なのか、それとも右翼の恨み節なのか? "Academic free speech or right-wing grievance?"」の紹介は次の記事で行いたい。

先にも述べたが、ハーバートの指摘は、アカデミアにおける多様性への批判の背後には、白人至上主義・女性差別・トランスフォビアがあると言うこと、業績主義の欺瞞をついているところであると考える。

ニック・ボストロムの「昔のメール」事件

今年一月の半ば、オックスフォード大学の哲学者ニック・ボストロムが、過去に書いた差別的なメールについて突然謝罪を発表するという騒動があった。ボストロムは、人間原理や人類の存亡リスクなどに関する研究で有名な人物で、このブログでも何度か取り上げたことがあったので、この騒動には注目していた。騒動から一ヶ月程度経った時点で、とりあえず報道や記事も一通り出て、その後もすぐには大きな動きも出そうもないので、今更ながら目に止まったことをメモとしてまとめてみたい。

ボストロムは、著書の一つ『スーパーインテリジェンス』は日本語にも翻訳されている。また、日本語の著作では三浦俊彦『多宇宙と輪廻転生』や稲葉振一郎『宇宙倫理学入門』ではボストロムの言説が紙幅をさいて論じられていた。

今回のボストロムの差別メール謝罪騒動に関しては、以下の記事が経緯からボストロムが代表的な論客の一人と目されている「効果的利他主義 Effective Alturism(EA)」や「ロングターミズム」の含意への批判も含めて一番読み応えがあった。

“Nick Bostrom, Longtermism, and the Eternal Return of Eugenics”

www.truthdig.com

ニック・ボストロムが、ロンドン大学(LSE) の院生時代('96)に今でいう transhumanism の人が集まるメーリングリストに「攻撃的な議論の仕方の効用」のようなお題について出したメールについて差別的なものであったと謝罪する文章を発表したのが、1月12日。それをボストロムの盟友 Anders Sandberg が、 twitter に流し(ボストロムはアクティブな twitter アカウントを持っていない)、一般の人やネットメディアに知られたというのが経緯だ。

メールの内容が、おそらく多くの人の予想を上回るくらい悪質であったこと(人種によって知能が劣るという内容を科学的な事実であるかのように述べ、その「事実」が次のように受け取られるとして「Nワード」を含む表現をしている)に加え、謝罪の内容が明示的に差別的な内容を否定するものでなかったことなどや自サイトに挑発的な文言を出したりしたことなど誠意を疑われることもあって、非難を集めた。

元のメールへのリンク https://extropians.weidai.com/extropians.96/0441.html とボストロムの謝罪文へのリンク https://nickbostrom.com/oldemail.pdf を載せておく。

ボストロムの唐突の謝罪は、誰かが過去のメールを引っ張り出そうとしていると風の便りで聞いたので... ということのようだけど、その誰かというのが、この “Nick Bostrom, Longtermism, and the Eternal Return of Eugenics” という記事の著者その人だそうだ。

著者のエミール・トレス氏は、ドイツ出身の哲学者で 2019 年くらいまではロングターミズムに共感するところもあったようだけど、現在は salon などにロングターミズムを批判する記事を書いて批判側に立っている。今回は過去のメールを発見(多分そもそも公開されていた)し、この内容がボストロムのもので間違いないかボストロム周辺の人々に確認していたら、本人にも伝わって先手を打って謝罪文の公開になったようだ。

記事では、メールの内容と謝罪についてだけでなく、ロングターミズムや効果的利他主義の優生主義や障害者差別につながりうる含意を批判している。

EA の代表論者 William MacAskill の新著に新無神論のサム・ハリスが推薦文を寄せているそうだけど、サム・ハリスは、まさに Bell Curve (1994) の著者 Charles Murray を podcast で賞賛したそうで、EA と優生主義の結びつきを批判している。

その他に、障害学の研究から今回の事態およびロングターミニズムについて批判を行なった記事などもあった。