わが忘れなば

備忘録の意味で。タイトルは小沢信男の小説から。

批評や批判が自分に当てはまることを”ブーメラン”で例えたのは、花田清輝が最初!?

 よく、批判が発言者にも当てはまってしまうことや発言者自身にこそふさわしい批判をしてしまったことを風刺して「ブーメラン」という表現を使うのをインターネット上の論争などで見るけれど、(ぼくのTL上でも昨日、一昨日と一回ずつ見た)いつごろから使われるようになったのだろう? 一番最初の例かどうかは分からないが花田清輝『冒険と日和見』(増補版、1973、創樹社)にそういう表現があった。(ただし、表記は「ブーメラング」)

「ブーメラング」

 批評というものはヤマビコのようなものではない。古い歌の文句に「あなたとよべば、あなたとこたえる」とかなんとかいうのがあるが、批評家が、あなたとよんでも、だれもあなたとこたえてくれるやつはいないね。バカヤローといえば、さっそく、バカヤローとこたえてくれるかもしれないが。
 したがって、わたしは、むかしから批評というものをブーメラングみたいなものだとおもっている。ブーメラングというのは、オーストラリアでつかう狩りの道具、投げると、かならずもとの位置に帰ってくるところに特徴がある。
 もっとも、たしかドイツの詩人リンゲルナッツに「ブーメラングは飛びたった。しかし、二度ともどってこなかった」というような詩があったが、あるいは詩人にとって、詩とはそんなできそこないのブーメラングみたいなものかもしれん。しかし、批評家のばあいはちがう。批評家には、空をながめながら、アッケラカンとした顔つきで、消えうせたブーメラングの帰りを待つようなことは、万が一にもありえない。いくら長すぎるやつであろうと、これはとおもう獲物をねらって、ブーンと投げると、ちゃんと手もとへ帰ってくるから奇妙である。
 ただ、そのさいよほど注意をしていないと、そいつがこちらに命中して、ミイラとりがミイラになり、地上にながながとのびてしまう危険のあることはいうまでもない。批評家という人種は、ひとのことをとやかくいって、自分は安全地帯にノホホンとしているやつだとおもいこんでいるような御仁がいまだにあとをたたないが、そんなものではない。

(1970,1)

 「あなたとよべば、あなたとこたえる」は、調べたら、サトウ・ハチロー作詞・古賀政男作曲・ディック・ミネ歌唱の「二人は若い」という 1935 年の歌謡曲の一節だった。(花田はよくこうやって流行歌の一節を引用する)

 リンゲルナッツ(1883‐1934)は、ドイツのノンセンス詩人だそうだ。 土曜美術出版から『リンゲルナッツの放浪記』(鈴木俊訳、2000)、国書刊行会から『動物園の麒麟―リンゲルナッツ抄』(板倉鞆音訳、1988)が出ている。

 この文章では、花田は批評一般をブーメラン(グ)にたとええているが、今よくみるこの例えの使い方では、「そいつがこちらに命中して、ミイラとりがミイラになり、地上にながながとのびてしまう」ような批評に対してだけ使うことが多いような気がする。それはともかくとして、この文章は、さすが、花田といいたくなるようなイメージ喚起力豊かなほれぼれするようなものだ。

 ブーメランの比喩を初めて批評にあてはめたのが花田かどうかはわからないし、花田がこの比喩を使ったのがこの文章が初めてなのかもわからないが、まあ、はやいほうなのはたしかだろう。(なにしろ、ブーメランの説明をしているし、そもそもこの比喩だけで文章を持たしているわけだから)

 もっとはやい例や他の作家・批評家が使っている例があったら御教授ください!

 あと、余談だけれど(といっても、このエントリー自体が余談だけれど、)よくブログのカテゴリやタグ等に使われる「どうでもいい」という文句も花田清輝お得意のフレーズ「しかし、まあ、そんなことはどうでもよい」を連想させる。これも花田の影響!?

 余談 2。(花田清輝は関係ない)ブログのコメント欄などで署名のところに「バカ」とか「アホ」とか書いてしまう人をからかって、その人に「バカさんコメントありがとうございます。」みたいに返すというのもネット上で何度か見た気がする。

 ココロ社さんのこの記事など。

http://d.hatena.ne.jp/kokorosha/20070627#p1

 これは、エドモン・ロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』(辰野隆鈴木信太郎訳)に似たようなやり取りがあった。

子爵 木葉天狗、木偶の棒、もの笑いの乞食野郎!

シラノ (帽子を脱って敬礼する、恰も子爵が上記の名を名乗ってでも出たかの様に)うん、そうか? ……では俺も名乗って聞かせよう、シラノ・サヴィニヤン・エルキュウル・ド・ベルジュラックたあ俺の事だ。
(大笑い)

これが、起原かな?

西城秀樹「Best★BEST」

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